608年前半(2)   

さて、




その夜、ガアチウルグ長のテラソン宅。

そろそろ寝ようとベッドにもぐりこもうとしていたブリヤンクは、帰宅してきたドラケンにすれちがいざま、後ろから思い切り足を蹴られて転びそうになりました。

b0057741_21343037.gif「いてっ……!何するんだよドラケン、痛いじゃないか」
b0057741_18254468.gif「悪かったな。お前の足が長いんで当たっちゃったんだよ」
b0057741_21343037.gif「ええ? 絶対わざと蹴っただろう?」
機嫌が悪くても普段人に当たったりしない双子の兄なのに、今日は何だか様子が違います。
そう言えば、今日はドラケンはミルドレッドとデートしてきたはず、と思い出したブリヤンク。
なのにこんなに不機嫌と言うことは、デートで何かあったのかもしれません。
ブリヤンクの言葉を無視してドラケンも寝る準備をしながらぼそりと、

b0057741_18254468.gif「双子で何でも同じはイヤだったはずなのに、何でこれだけは一緒なんだよ」
b0057741_21343037.gif「え? 何が一緒だって?」
b0057741_18254468.gif「ぼくより先にミルドレッドと一緒にタラの港に行ったんだろう?」
b0057741_21343037.gif「え……どうして知って……もしかして、今日はぼくのことでミルドレッドさんとケンカしたんだ?」
ちょっと驚いた顔をしたブリヤンクに、ドラケンは無言です。

b0057741_21343037.gif「あはは……ぼくが原因で二人がケンカなんて、ちょっと嬉しいな」
そんな兄の顔を見て、ブリヤンクは笑い出しました。

b0057741_21343037.gif「顔を見ればわかるよ。プライド高いから、ぼくが先にミルドレッドさんとタラの港に行ったのが気に食わないんだ。でも、自分が成人したからと言って、他の男が誘いに来ないわけがないって考え付かなかったの?」

b0057741_18254468.gif「彼女がOKするわけないって思ってたんだよ」
b0057741_21343037.gif「へえ。何でそんなに自信があったの?」
b0057741_18254468.gif「……そういう約束を、ぼくの成人前にしてくれてたんだと思ってたんだ」
b0057741_21343037.gif「約束?」
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「ぼくが成人した時に、彼女がまだ誰とも結婚してなければ、ぼくにチャンスをくれるってね。そして実際、ミスプルトの彼女が一人身だったのが、答えだと思ってた」

それはブリヤンクにとっては初耳。

昔、学生の時に学び舎で、ドラケンが議長になりたいという夢をミルドレッドに話し、自分も議長の家に住んでみたいと言った彼女に、一緒においでよとドラケンが答えていたことはブリヤンクも知っています。でも、それだけだとある意味子供同士の口約束でしかない話。その上、お互いに成人になるまで2年も離れていて、それでもなおミルドレッドが誰とも付き合わず兄が大人になるのを待っていた理由が、ただ夢見がちな少女だっただけではないことを、ブリヤンクは初めて知ったのでした。

b0057741_21343037.gif「……何でドラケンがいいのかなあと思ってたけど、そういうことなんだ」



成人の直前の年末に、ミルドレッドに同じバハで一緒にいたいと告白めいたことを言ったり、成人した後にはドラケンより早く遊びに誘ったり、兄より少しだけ先を越していたはずだと思っていたのに、先を越されていたのは自分の方だったのだと気づいたブリヤンク。

だから、彼女には兄しか見えていなかったのだろうか?
もしかして、最初から自分には勝ち目がなかったのだろうか。


b0057741_21343037.gif「……彼女は優しいから、ぼくのお誘いが断れなかっただけだよ。そして結局彼女はドラケンの恋人になって、ぼくは傷ついた、それで今日の件はおあいこだろう?」

ブリヤンクの言葉に、ドラケンも、自分ばかりが面白くないわけではないことに気づいている様子。
最後に、ブリヤンクは冗談めかして、ドラケンにこう言いました。

b0057741_21343037.gif「二人がうまく行くよう祈ってるけど……でも、どうしてもうまく行かないんだったら、この先ぼくにもチャンスあるのかな? ドラケン」
b0057741_18254468.gif「……ないと思うよ」



そこだけ、いつも通りの兄のきっぱりとした答えに、ブリヤンクは溜息をひとつついた後、ドラケンの隣に行き、その足を思い切り蹴り飛ばしました。

不意を突かれて、ドラケンが顔をしかめて足を抱えているのを横目で見ながら、もう一度寝る準備を始めたブリヤンク。そして彼は、兄になのか、それとも自分になのか、言い聞かせるようにこう言ったのでした。

b0057741_21343037.gif「そう思うんだったら、 仲直りして来なよ。ぼくは賭けたんだけど、賭けに負けちゃったんだ。心配することは何もないよ。だからもう寝よう、兄さん」





ミルドレッドは最近バハウルグには働きに行っていません。
行けば、ブリヤンクに会うでしょう。そうしたら、彼はまた普段と様子が違うミルドレッドに気が付いて、どうしたのかと声をかけてくれるに違いありません。
でも、何があったのかブリヤンクには言えないし、彼の優しさに甘えるのは都合がいい気がして、バハに足が向かないミルドレッドは訓練したりして時間を潰しています。

その日も買い物をして、夕方、

b0057741_2062380.gif「ただいま」

ミルドレッドが帰宅すると……家の中に家族に混じって、コークの服を着た若い男性が立っているのが見えました。
ミルドレッドの家の中で、コークショルグの赤い服を着ている男性は、第4段階の老年に入っているアトリお父さんしかいません。

あれ……ぼうっとしてて、家を間違えたかしら……?

b0057741_18254468.gif「ミルドレッド」
それはドラケンでした。

付き合い始めてからドラケンが初めて、夜にミルドレッドの家までやって来たのでした。

ドラケン!? なんであたしのうちに!?

驚いているミルドレッドの後ろから、

b0057741_1911521.gif「あれー? ドラケンがうちに来るなんて珍しいね」
ちょうど帰宅して来たキリアンも物珍しげに友人を見ています。

ミルドレッドが帰ってくるまで長い間待っていたのか、家の中でレイチェルお母さんや、アトリお父さん、それから夜の訓練に出かける前のミュリエル伯母さんに好奇の目で見られながら、ちょっと緊張した声をかけてきたドラケン。

b0057741_18254468.gif「この間はごめん」
b0057741_2062380.gif「……べ、別に……」
開口一番にドラケンに真顔でそう言われて、ミルドレッドは家族の手前、そう答えるしかありません。

っていうか、ケンカしたけどこの間キスされたかと思うと恥ずかしくて顔が見れないわ…!

そばに来たドラケンの顔がまともに見られなくて、不自然に顔をそらすミルドレッドにドラケンがなおも近づいてきます。
逃げ出したくて、ミルドレッドがもう暗くなっている家の外に足早に出ると、ドラケンが追いかけてきました。すると、二人の間のぎこちない空気を目ざとく察して、一緒に外に出てきたキリアン。

b0057741_1911521.gif「ちょっとちょっと、ごめんって、お姉ちゃんに何したのドラケン」
b0057741_18254468.gif「昨日今日とバハに行ったけど会えなかったから」
b0057741_2062380.gif「だ……だって、仕事に行ってないし」
b0057741_18254468.gif「ぼくが来るかもしれないから?」
b0057741_2062380.gif「……あたしの様子が変だと、バハでブリヤンクがまた気づいて気を使ってくれるだろうから、悪いなと思って……」
b0057741_1911521.gif「二人ともまたケンカしたの? もうなんでいっつもそうなのさ。大体ドラケンはさ、もうちょっと周りを見て優しくなんないとダメだよ。例えばぼくみたいにさ!」
b0057741_18254468.gif「……確かにぼくはブリヤンクみたいに優しくはないけど、ああいうバスの浜でのやり方は良くなかったと思う……謝りたかったんだ」
b0057741_2062380.gif「……キスって、ああやって怒って無理やりするものなの? お、大人になったと思ってたけど、あれじゃ中身は子供のときのドラケンのまんまじゃない」
b0057741_1911521.gif「えええちょ、ちょっとドラケン、お、お姉ちゃんとキスしたの!?」
b0057741_18254468.gif「ごめん。でもぼくだってまだ去年成人したばかりで、急に完璧な大人にはなれないよ」
b0057741_1911521.gif「っていうか無理やりって何!? それでケンカしてるの!? ねえねえそれってどういうシチュエーションー!?(わあわあ)」
b0057741_18254468.gif「……ちょっと黙っててくれキリアン!!」(バフッ)
b0057741_1911521.gif「もがっ」
ミルドレッドの視界の端で、レイチェルお母さんが外に出てきて、耐え兼ねたドラケンに片手で口を塞がれてじたばたしているキリアンを捕まえて家に引っ込んだのが見えました。

その隙にドラケンの横をすり抜けようとしたのに、気づいたドラケンに前を立ち塞がられて、思わず怒ったように彼を見上げたミルドレッド。

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「ど、どいてよ」
しかし、真顔の彼が静かな声で返してきた言葉はこうでした。

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「どかないよ」
……こういうことが前にも一度ありました。
あれは、ミルドレッドはもう成人していましたが、ドラケンが学生の頃。評議会館で、今と同じように行き違いがあって気まずくて、早く立ち去りたいミルドレッドと、どいてくれないドラケンとで向き合っていた時のこと。
でもあの時は、まだ小さかったドラケンの腕を振りほどき、脇を最後にすり抜けて、その場を走り去ることが出来たのに、今は、

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「昔みたいにすり抜けるのは無理だよ」
ドラケンの言葉通り、今は彼の方が体格がいいし、逃げ出そうとしてもあっという間に捕まってしまうでしょう。

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「……じゃあ力ずくで通るからいいわよ!!」
腹立たしくなって、とっさに彼を押し戻そうとして振り上げたミルドレッドの両手を、

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「待って」
しかし、ドラケンはいとも簡単にとらえて、かわしたのでした。

ま、またあの時みたいに腕ずくでどうにかするつもり?

でも、彼が今、ミルドレッドの腕を掴んでいる強さは、あのバス浜の時のような強引な力ではなくて、あと少しミルドレッドが頑張れば振りほどけるくらいの力。彼があの時のミルドレッドの気持ちを考えて、意識して無理強いにならないようにしているのがわかります。
大人のように思慮があったり、素直でない子供のようだったり…こういうところがミルドレッドにとって、ドラケンにどう接していいのかわからなくて、戸惑い振り回されるところなのです。

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「これだけは聞いて欲しいんだ。昔から、決して傷つけたくて色々言ったり、行動してるわけじゃないんだ。多分ぼくはいつも……嫉妬してるんだ」

そう……この間のバス浜の時もですが、思い返すと、子供のときから彼がミルドレッドに冷たかったり、そっけなかったりする時はいつもそういう場面でした。

でも、

b0057741_2062380.gif「……いつもあたしを不安にさせておいて、後から謝ってくるのってズルイわよ……」
b0057741_18254468.gif「じゃあ、ミルドレッドがよく言うように、ぼくはバカなんだろう」
皮肉でも何でもなく、自嘲気味に言う彼に、彼がさっき自分で言った、「急に完璧な大人にはなれない」という言葉が脳裏によみがえります。
だからと言って素直に受け入れられなくて、彼に腕を掴まれたまま、下を向いてこう続けたミルドレッド。

b0057741_2062380.gif「せ、成人しても、働いててデートのお誘いにもなかなか来てくれないし、デートでお喋りしてたらケンカになっちゃうし……もっと優しい人のほうがあたしには合うのかも……」
b0057741_18254468.gif「でも、そういう男は議長になれないよ」
b0057741_2062380.gif「そ、そんなのわからないじゃない! 例えばブリヤンクだってとても働き者だし、もしかしたら、ほかの人だって……」
b0057741_18254468.gif「違うよ。ぼくだけだ」
b0057741_2062380.gif「え……」
b0057741_18254468.gif「ぼくだけがミルドレッドを議長邸に連れて行くんだ。他の誰でもない。子供のときのぼくの夢を笑わないでいてくれたから、ぼくの成人まで待っていてくれたから、ぼくが連れて行くんだ」

ミルドレッドは、小さい時の約束を、去年の年末、議長選があった時に彼も覚えてていてくれていると知って嬉しく思ったことがありました。例えそれが、子供同士の無邪気な約束だったとしても。
でも今、ドラケンの言葉を聞いて、大人になった彼の中でも自分との約束がちゃんと生きていて、彼の子供の頃からの夢にずっと寄り添っていたのだと、ミルドレッドは初めて気づいたのでした。

b0057741_18254468.gif「……だから、今はどうやっても仕事しかできないから、どうしてもそっちに気を取られがちになってた。それが独りよがりだったんなら……ごめん」


彼の声が囁くようになるのと共に、ミルドレッドの腕を掴んでいた彼の手の力も緩やかになって来ます。
恋人同士になる前もなった後も、お互いの言いたいことが素直に伝わらないことも多くて、いつもすれ違っていて、ドラケンに謝ってもらうこともたくさんありました。でも……ミルドレッドが今彼から一番聞きたいのは、謝罪の言葉ではありません。
いつもいつも、心の中で彼に聞きたいと思っていたこと、それは……

b0057741_2062380.gif「……あたしのこと、どう思ってるのか、ちゃんと言って……!」

掴まれていた手を振りほどいて彼にしがみつき、目を閉じても自然に涙が溢れそうになる顔をその胸にぎゅっと押し付けながら、ミルドレッドが言ったのはその言葉。

b0057741_18254468.gif「……好きだよ。ぼくには君が必要なんだ」
b0057741_2062380.gif「……もう一回言って」
b0057741_18254468.gif「好きだよ」
b0057741_2062380.gif「もっとたくさん言って!!」
b0057741_18254468.gif「今言ったじゃないか」
しがみついているせいで顔はよく見えないけれど、こういうことにはあまり慣れていない彼が、気恥ずかしいのか少し怒ったように言うのへ、

b0057741_2062380.gif「だって、ちゃんと言ってくれなきゃわからないし、言って欲しいの……! やけくそのキスより、そっちの方がずっとずっと嬉しいのよ……!」

彼の胸に顔を押し付けて抱きついたまま、振り絞るような震え声でそう言ったミルドレッド。

肝心なことはいつも言わない彼だから、今までの分、どんなにたくさん聞いても聞き足りないくらい、言って欲しい。
抑えきれない思いが溢れ出て自分でも止めようがないミルドレッドに、さすがのドラケンも、根負けするしかありません。
観念したような表情で暗い天をいったん仰いだドラケン。それから彼は、胸の中のミルドレッドを受け止めるように抱きしめながら、吐息混じりにこう囁いたのでした。

b0057741_18254468.gif「何回でも言うよ。好きだよ」



そんなわけで、喧嘩もしたけれど、お互いの気持ちをもう一度確かめ合った二人。
付き合い始めてからも、お互いの距離がうまく掴めなくて、すれ違ったりもしたけれど、これからはもっと素直に相手を思いやれるでしょう。



↓家の扉の隙間からこっそり

b0057741_1911521.gif「ってあれえー!? 遠くて何言ってるのか全然聞こえないけど、お姉ちゃんたち抱き合っちゃって、さっきまでケンカしてたんじゃないの!? 何これどーいうこと??(汗」
b0057741_2084239.gif「あんたにも彼女出来たらわかるわよ……とにかく覗き見するのやめなさい!」





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by blue-ground | 2014-11-01 00:00 | 11代目ミルドレッド

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