607年前半(3):
2009年 02月 27日
この日ミルドレッドは、昨日5日に続いて、またレイチェルお母さんとアトリお父さんが温泉デートしているのを見かけました。(多分積極的なレイチェルが誘っていると思われる)
二人で温泉に向かう姿は、なんだかとっても楽しそうでうらやましいミルドレッド。
午後はDリーグ戦です。
もう、Dリーグって年明け早々試合の連続で忙しいわ~!
と思いながら向かった試合、残念ながら65vs91で負けてしまいました。
「ちょっぴり不幸」になったミルドレッドが、その後バハウルグでちょろっと仕事をしながら、長いため息とともに思わず呟いたのは、
「あたしもデートした~い……」
「えっ? 」
ミルドレッドの呟きに隣で仕事をしていたブリヤンクが反応します。最近、ブリヤンクとはよく仕事している時間が一緒になるのです。
「えっ、う、ううん、なんでもないの。えっと、4つめに宝珠が取れたって言ったの、ほら」
「そう。重いだろうし、納品口まで半分持って行ってあげようか?」
そう言って手を差し出してきたブリヤンクに、ミルドレッドは、
「大丈夫よ。もうすぐ鐘も鳴っちゃうし、宝珠だけ持って帰っちゃうから。ブリヤンクも帰る?」
「うん……ぼくはもうちょっと仕事をして行くよ。先に帰ってて」
「じゃあ、またね」
そう別れを告げて、ミルドレッドはバハウルグを後にしました。
そういえばブリヤンクは、仕事に現れる時はミルドレッドと同じような時間に来て、傍にいる時はなにかと気遣ってくれますが、いつも遅くまで仕事をしていて、ミルドレッドとは一緒に帰ったことがありません。
双子だから、ドラケンと同じように仕事熱心なのはわかるけど、一日くらい仕事切り上げて、家が同じ方向のあたしと一緒に帰ってもいいと思うんだけど……!
ちょっと不思議なミルドレッド。
そしてここ最近はいつも、夕方仕事を終えると、ミルドレッドはちょっとだけ期待に胸をときめかせながら家路に着きます。仕事の終わった夕方は、未婚の男女のデートのお誘いタイム。この時間は、恋人たちが明日のデートの約束を交わしたり、彼氏彼女がいない人にとっては、お目当ての人に声をかけたりするチャンスなのです。
今日来てくれたりするのかしら……するのかしら……
……
(来な~い!!)
とうとう家が見えて来るまで期待していた人が声をかけてきてくれなくて、ミルドレッドはがっくりです。
もう、いっつも夜遅くまで働いててるみたいだけど、いったいいつ来てくれるのよ~!!
今日も当てが外れて、落ち込みながら歩いていると、ミルドレッドは弟のキリアンが歩いているのを見かけました。
これから帰るのかしら? と思ったミルドレッドが声をかけると、キリアンは
「ウルグ長さんをデートに誘いに行くんだ」
ええー! こ、この間の議長さんに引き続いて、またそんな年上そうな人を……!
「ウルグ長さんって誰よ」
「えーと、ガアチウルグ長さん!」
なんとキリアンの言う相手は、ドラケンとブリヤンクの母親でガアチウルグ長のルレジーナさんでした(汗)(←向かっていったのがガアチウルグ長の家だった)
キリアンってば、ルレジーナさんは友達のお母さんじゃない!
それにそもそもルレジーナさんは未亡人でもなんでもなく夫持ちよ~! 同年代を誘いに行けばいいのに!
とミルドレッドは思いますが、よく考えたら同年代の女の子はあまりいなかったのでした。(才能持ちの女の子は皆さっさとカップルになって、適齢期でフリーの女の子は今、ユーカちゃんとアンナマリアの2人のみ。二人とも無才能だからか、男性陣は全然誘いに行きません。こんなに可愛いのにもったいねー!!)
その後、今夜開催されるコーク杯ナイターを観戦に行くらしい両親を見かけ、通りでミルドレッドが声をかけたところ、こんな答えが返ってきました。
夫婦そろってケートさんの応援だったようですが、この呼び方の違いは何だったのか謎です。役職に付いている人は、友人欄にいても基本役職名で呼ぶんだと思ってたんですが、違ったっけ……。
(……って、今日の試合に出てるの、ボーダンおじさんじゃない!)
「あら?? 今日ボーダンの試合だったのね」
「あれ?? 今夜ボーダン君出てたんだ」
「ちょ、お前ら!!二人そろってオレの対戦相手の応援かよー!!」
アトリお父さんは本当にボーダンおじさんのギブルをご祝儀買いしただけで、試合日程は把握してなかったようです(笑)ちなみにこの試合、最初ケートさんが優勢だったのですが、最後にボーダンおじさんがコールドランスで逆転勝ちをしていました!
おじさんもあと1回勝てば、シードのお母さんと優勝をかけた対戦じゃない! 頑張って!
とミルドレッドも応援です。
さてその頃、ガアチウルグ長宅では、
「ただいまー」
「あ、お帰りー!」
「あれ、キリアン? 何でうちにいるの?」
(ちょっと遅れて仕事から帰宅)「ただいま」
「あ、お帰り!!」
「あれ? 何でキリアンがうちに?」
「うん、ガアチウルグ長さんに女の子紹介してもらおうと思って。議員さんは顔が広いしね!」
←先日の議長さんといい、どうやら議員めぐりをして知り合いの女の子を紹介してもらおうとしているらしい
「そ、そう……」
母親のルレジーナさんと仲良くおしゃべりしているキリアンに、二人はびっくりです。
こんな感じで(?)、積極性を保ったまま成人したキリアンは、お相手探しに余念が無い様子。
キリアンが帰った後、双子が母親から言われたのは、
「あなたたちも早く結婚しなさい! うちの子4人もいるのにまだ誰一人結婚してないのよ!!」
「わかってるって……」
ほんの数日前成人したばかりなのに、親からしょっちゅうこう言われるようになり、二人とも少し閉口気味(笑)
母親の前から自分たちの部屋にあわてて退散した後、もう寝ようかと言う頃になって、不意に双子の兄にこう話しかけたブリヤンク。
「……母さんああ言ってたけどさ、ドラケンは、仕事三昧みたいだけど、誰かに声をかけに行ったりしないの?」
「え? まあそのうちに。今はしばらく働いて、どれくらい仕事をすればどれくらいポイントになるのか、知っておきたいしさ」
「……」
「何?」
「たまにはさ、ミルドレッドさんに話しかけに行ったら?」
「え? ああ……でも彼女、今はリーグ戦で忙しいみたいだし。それに……」
「それに?」
「ぼくが話しかけると、なんか向こうがぎこちなくて、会話が途切れたりするんだ。前はもうちょっと、普通に話をしてくれてた気がするんだけど……」
「……よく言うなあ。自分だって散々……」
「何だよ?」
「何でもないよ。とにかく、バハウルグに会いに行ってあげなよ。彼女、元気がないみたいだったから、その……一緒に出かける約束して遊びに行ったりとかさ……」
「……」
翌日、7日。
ミルドレッドは今日も朝からバタバタと試合です。
今日の対戦相手はピトーさん。
ミルドレッド側にはいつものように両親と、姉エリン、兄ベイセルが応援に来てくれています。そしてピトーさん側には……ブリヤンクがいます。ピトーさんは、ブリヤンクのお兄さんなのです。
じゃ、じゃあドラケンも来てるのかしら?
とっさにそう思って目で闘技場を探したミルドレッドですが、ドラケンの姿はありませんでした。
身内の応援に来ないほど優しさが低いのか、もしくはガアチで仕事に夢中なのかもしれません。
(なんかもう全然姿を見ないじゃないのよ!!仕事ばっかりしちゃってもう!!)
そんなミルドレッドの怒りの結果か(?)この試合、ピトーさんに164vs77で勝利!
試合後、ブリヤンクがミルドレッドに声をかけてきました。
「ミ、ミルドレッドさんってけっこう強いんだね」
「だって、試合ってストレス発散にちょうどいいんだもの!!」
「ストレス??」
「そうよ。それよりブリヤンク、今からバハに仕事に行くんでしょ? 一緒に……」
「え……ああ、ぼくは今日はちょっと……ミルドレッドさんは仕事に行っておいでよ。いいことがあるかもしれないよ」
「え? いいことって何? 今日は宝珠がいっぱい取れそうとか? だったらブリヤンクも一緒に仕事しようよ」
そう言ってミルドレッドが彼の腕を引っ張ると、ミルドレッドの手を、掴まれていないほうの手でそっと優しく離しながらこう言ったブリヤンク。
「……ごめんね。ぼくは今日は、バハには行きたくないんだ」
「そ…そう……」
それ以上強く言える雰囲気ではなくて、ミルドレッドはうなずくしかありませんでした。最近いつも一緒に仕事をしているのに、どうしてブリヤンクが今日は行きたくないと言うのかミルドレッドにはわからないまま。
仕方がなく一人でバハウルグに向い、いつものように仕事をしていたミルドレッド。作業途中でふと顔を上げたミルドレッドは、びっくりして声をあげました。
「あ……」
ドラケンがバハまでやってきていたのです。
だ……誰か探しに来たのかしら? そう思いながら見ていたら、ミルドレッドの姿を見つけたドラケンが、まっすぐこちらにやって来ます。
え……あ、あたし!?
あわてて立ち上がったミルドレッドの傍にやってきたドラケンは、
「こんにちは、ミルドレッドさん」
「こ、こんにちは。な、何しにきたの?」
するとドラケンの答えは、
「ブリヤンクがバハに行けってうるさくて」
あ……もしかしてブリヤンクが言ってたのはこのこと……?
でも、これってあたしに会いに来たとかじゃなくて、言われたから来たってこと?
ちょっとムッとしているミルドレッドに、
「ピトー兄さんに聞いたんだけど、今日兄さんと試合して勝ったんだって?」
「勝ったわよ」
「去年ナタリーデ姉さんにも勝ってたし、ミルドレッドさんってけっこう強いね」
「よく覚えてるわね。試合のことをわざわざ言いに来たの?」
「いや……」
「じゃあ何しに来たのよ」
「ミルドレッドさんの顔が、見たくて来たんだ」
真面目な声で目の前のドラケンにそう言われたとたん、ミルドレッドは顔が一気に真っ赤になるのを押さえ切れませんでした。
あ、あたしの顔を見てどうするの?
って言うか、あたしの顔を見たいと思って来てくれたわけ? ブリヤンクに言われたからって言ってなかった?
で……でも、嬉しい!!
「会いに来たら変かな?」
「そ、そんなことない……けど……」
頬を火照らせたまま、またうつむいて顔を上げられなくなってしまったミルドレッド。大人になったドラケンを前にすると、彼の何気ない一言にすごくドキドキする自分がいます。
ちょうどこの時、納品口が閉まる合図の鐘の音が辺りに響きました。今日の仕事はもう終わり。
照れるのと嬉しいのとで、何を言えばいいのかわからなくなってまた黙ってしまったミルドレッドに、ちょっと困った顔をしたドラケンは、ミルドレッドが手に抱えている4つの収穫物に目をやって、
「それ、持って帰るの?」
「え、う、うん」
「じゃあ……」
と腕を伸ばしてミルドレッドの代わりに、荷物を持ってくれたのでした。
「送るよ」
「あ、ありがと」
こういう時、気を遣ってまず最初に「手伝おうか?」と聞いてくれるのがブリヤンクだとしたら、何も言わないでこんなふうに行動に出るのがドラケン。
思っていることをいつも最後まで口に出さないことも多いドラケンに、彼の心の中がわからず、ミルドレッドはいつも戸惑ったり不安にさせられたりします。でもやっぱり、小さいときから好きだった相手にこういう風にされると、ミルドレッドは内心、すごく嬉しくてたまりません。
二人とも家はバハ区なので、話をする間もなく、バハウルグからすぐに着いてしまいます。家の前の通りに来た時、ミルドレッドは、
このままだと、またこの前みたいにあっさり別れちゃうかも。せ、せっかくだから何か言わなきゃ……!
と頭の中で必死に話題を探しました。
た、例えば、「どう、最近?」とか、「ねえねえ、今すっごく幸せなの!」とか……あ~なんだか全然イケてない話題だわ!!
口をもごもごさせていたミルドレッドは、隣でドラケンがちょっとためらいがちに、
「……ミルドレッドさん。あのさ、明日……」
と言いかけていたのに気づかず、もじもじしながら
「ド、ドラケン!! あの……」
「え?」
「え、えっと……あの……し、仕事頑張ってね」
口に出してしまってから、
あ~あたしのバカバカ! 本当はこんなこと言いたかったんじゃなくて、遊びに誘って欲しいって言いたかったのに!!
とミルドレッドは大後悔です。
でも、
「うん」
ちょっと笑ってうなずいてくれたドラケンに、嬉しくて思わず自分の顔もほころんでしまったミルドレッド。するとドラケンが、
「そんなふうに笑ったほうが、かわいいと思うよ」
「!!」
その後、ドラケンと別れてからミルドレッドがハッと気が付いたのは、
あ……あたしったら仕事頑張れなんて言っちゃって、これじゃあドラケンって、ますます仕事ばっかりするんじゃない?
一体いつになったら、あたしをデートに誘いに来てくれるの~!?
翌日、朝からバハウルグへ仕事に行ったミルドレッド。
仕事をしていたら、珍しく息せき切って走って仕事場へやってきたブリヤンクが、声をかけてきました。
「あれ、やっぱり……!ミルドレッドさん、どうして朝から仕事場にいるの?」
「おはようブリヤンク。だって今日の試合、お昼からなんだもの。あたしが朝から仕事してたらおかしいの?」
「そうじゃなくて……ドラケンも今朝ガアチに行っちゃったけど……昨日、バハウルグにドラケンが来たよね?」
「うん」
「今日遊びに行こうって、誘われなかった……?」
「えっ。い、言われなかったけど」
「え……」
ブリヤンクはわけがわからないとでも言いたげな顔。その後も、仕事をしながら彼はずっと考え込んでいたようです。
そして午後の試合が終わって、またバハウルグへ戻って仕事をし、夕方作業を終えて帰宅しようとしたミルドレッド。
するとブリヤンクが呼び止めてきて、一緒に帰ろうと言って来ました。
あら、珍しく残業しないのね。もしかして、初めて一緒に帰るんじゃない?
と思いながらミルドレッドは彼と帰宅の途につきました。
昨日と同じく、バハウルグからお互いの家まではとても短い距離。近すぎてあまりおしゃべりしている暇は無いけれど何を話そうかとミルドレッドは思ったものの、ブリヤンクは何やら考え込んでいる様子です。
どうしたのかしらとミルドレッドが思っていると、暗い通りの途中で、ブリヤンクが急に立ち止まりました。つられて立ち止まったミルドレッド。
「どうしたの、ブリヤンク」
「……ミルドレッドさん。ぼくも、少し勇気を出していいかな」
「え?」
「明日、ぼくと遊びに行かない?」
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by blue-ground | 2009-02-27 00:00 | 11代目ミルドレッド